2017年8月18日金曜日

二度とあってはならないシャーロッツビルの惨劇


Aug 18, 2017

ボルチモアの親戚の家に来ています。黒人人口が6割を超えるこの市では、先週末(812日)にシャーロッツビルで南北戦争時の南軍将軍の像撤去をめぐり白人至上主義者によるテロ行為が起きた週明けの月曜に、黒人市長がボルチモア市内にある南軍関係の像4つの撤去を提案しその夜のうちに市議会の承認をえて翌日の夜中、さっさと4つとも撤去してしまった。

大統領のトランプは自らの支持基盤の機嫌を損ねまいとシャーロッツビルで白人ナショナリストとファシスト団体への非難を極力避けてきたが、ついに事件から1週間後に政権内の極右の代表的存在だったスティーブ・バノン主席補佐官の罷免を余儀なくされた。


トランプの大統領選を機に米国で勢いをました白人至上主義者の増殖と組織化についてプリンストン大学アフリカン・アメリカン研究助教授で新進気鋭の研究者キーアンガ=ヤマッタ・テイラー(Keeanga-Yamahtta Taylor)の最新の論考("No More Charlottesvillesジャコバン誌に掲載)を訳してみました。右翼と警察のなれ合いなど、日本でも事情は似ているのかも。(翻訳・文責=大竹秀子)

JACOBIN, 08.14.2017
共和党のレーシストな党是とドナルド・トランプの大統領就任を思えば、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者たちが起こした暴力事件は予測可能な出来事だった。

トランプの当選で、右翼による人種差別の暴力が解き放たれたのだ。白人レーシストたちはトランプ大統領におかげで恐れを知らなくなったばかりではない。彼らはトランプ政権が白人至上主義団体の劇的な増殖と暴力的な人種差別の暴力に口をとざしていることで勇気を得ている。

トランプ当選以来、殺害された人々のリストは長くなっていくばかり。人種差別に反対するアクティビスト、ヘザー・ハイヤー[訳注:シャーロッツビルで人種差別に抗議していたところを極右容疑者が暴走させて突入してきた車に衝突し命を落とした]も、その一人だ。ほんの2ヶ月ほど前にも、「オルタナ・ライヒ(alt-Reich)」と名乗る活動家たちが、アフリカ系アメリカ人の学生リチャード・W・コリンズ・Ⅲを殺害した。今年初めには、黒人の若い女性2人に罵詈雑言を浴びせていた白人レーシストを止めようと割ってはいったリッキー・ジョン・ベストとタリーシン・マーディン・ナムカイ・メーシュが惨殺された。女性のうち1人はムスリムでヒジャブを被っていたのだ。

トランプ政権は、コリンズの殺害にまったく反応を示さなかった。ベストとメーシュの惨殺に関しては、トランプが珍しく反応し、なんとも気のないコメントを発した。人種がらみのテロリズムに対するトランプの消極的コメントには、彼が自らの支持基盤をレーシストの狂乱へと駆り立てる時に用いる辛辣な大言壮語のかけらもない。

トランプはシャーロッツビルでレーシストの乱闘が始まってから何時間もたったのち、ようやく公式声明を出したが、「多数の陣営」による暴力に反対するという意図的にあいまいな表現にとどめた。

トランプの行動はひどいものだが、いまさらショックを受ける人はあまりいないだろう。大統領をめざして選挙運動を開始して以来、彼は暴力的なレーシストたちと無節操にいちゃつき、KKK、デービッド・デューク[KKK最高幹部]、その他の名だたる白人至上主義者たちの支援を得た。トランプの主席戦略官スティーブ・バノンは、かつて「オルタナ右翼」との自らの関係を自慢していた。トランプの副補佐官セバスチャン・ゴーカは、ハンガリーでファシスト諸団体と関係を築いた人物だが、先週、米国には「白人至上主義者たち」の問題はない、と述べた。

シャーロッツビルの事件はトランプ政権があいまいに、そしてもの静かに批判してみせるレーシストによる暴力沙汰の象徴のひとつだが、それはまた、米国でレーシストの暴力の組織化が驚異的にエスカレートしている現象の表れでもある。トランプの大統領就任以来、これまでに起きた白人至上主義者による殺人事件は、レーシストによるランダムな暴力行為と言ってよいものだった。だが、シャーロッツビルでの出来事は、事前に周到に計画された事件だった。.

シャーロッツビルの公園に立つロバート・E・リー[南北戦争時の南部連合の軍司令官]像の撤去に抗議して白人のレーシストたちがシャーロッツビルまで出向くことは数か月前から知られていた。レーシスト諸団体の寄せ集めからなるこの連中は、リベラルな大学町であるシャーロッツビルの市内や周辺で数か月間、抗議行動を繰り広げてきた。 — 811日に行われたたいまつを掲げての行進[KKKの集会でおなじみの、リンチを想起させる行為]は、すでにこの時、実施されていたのだ。

ファシスト諸団体と白人至上主義同盟者たちは、シャーロッツビルに銃も含めて武器を携えてくるようにと公然と指示していた。人々はそれを実行し、ヘルメット、棍棒、ペパースプレー、木の盾、突撃ライフルで武装してやって来た。11日夜、抗議行動と称する活動を開始する前に、白人男性の若者を主とする数百人が、たいまつをかざしてバージニア大学の構内を行進した。報道によると、彼らはまた、翌日予定されていた彼らのレーシズムに対抗する大規模抗議行動に備えて黒人教会で開かれていたミサに向けて、抗議のデモ行進を行った。

それは、剥き出しのレーシストの威嚇行為だった。白人至上主義者たちは表現の自由を行使しているだけだと主張したが、その言い分とは裏腹に、彼らは暴徒となって暴動を起こし、邪魔だてするものは誰であろうと殺すつもりでシャーロッツビルにやって来たのだ。南部貧困法律センター[公民権擁護活動で知られる非営利団体]は、ここ数十年間で最大の米国でのヘイト・グループの集会だったとしている。

暴徒集団と化した彼らの行動は、いくつかの現実を明らかにした。比較的少人数にも拘わらず、その規模に不釣り合いなまでに暴力的であることそして警察が彼らをすっかり甘やかしているということだ。11日夜、警察はたいまつを掲げたレーシストたちが「白人の命も大切(white lives matter)」と掛け声をあげ、ナチのスローガン「血と土」を叫びながら、抗議行動の許可も得ずに、黒人教会まで行進していくのを止めようとしなかった。翌日、警察は、白人至上主義者たちが隊列を組んで抗議者たちに向かって突撃し、人々を打ちのめすのを止めるでもなく立ちすくんでいた。

「黒人の命も大切(Black Lives Matter)」の抗議運動への警察の対応とは雲泥の差だ。警察は物理的暴力に余念がないレーシストの暴徒たちに好き放題をさせている。白人至上主義者たちが、戦車や催涙ガス、警察犬、強力な放水、機動隊による攻撃にさらされたことは皆無なのだ。レーシストに抗議する人たちはデモで「手に手を取った警察とKKK」と叫ぶが、実際、両者の間にはほとんど仲間同士のような和気あいあいとした関係が結ばれている。

トランプが、大統領選で彼を支え、いまでも大統領となった彼を支援している白人至上主義者たちを大っぴらに非難することにしり込みしているため、共和党は、ばつの悪い立場に置かれ、白人レーシストとのつながりを強く批判せざるをえなくなった。事件から2日後の13日までには、重要な例外である米大統領を除いては、白人至上主義者の暴力を糾弾しない共和党員をみつけるのは困難になった。

フロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員は、白人至上主義者に反対の立場を明白にするよう、トランプに懇願した。ユタ州選出のオリン・ハッチ上院議員は「悪は悪だとはっきり言う」ようトランプに迫った。ポール・ライアン下院議長は、シャーロッツビルの襲撃は「卑劣な偏見」の一例だと述べた。

共和党の涙は、いつわりだ。結局のところ、何か月にもわたりトランプが米国現代史上最悪のレーシズムを取り入れるままにし、彼が寄ってたつ基盤を与えたのは共和党だ。何か月にもわたり、共和党はホワイトハウスでのトランプのレーシストの暴走に声援を送ってきた。いうまでもなく、トランプは就任後、数時間もたたないうちにムスリムの入国制限を求めた。共和党員たちはまた、トランプが移民税関捜査局(ICE) を駆使して移民コミュニティに強制手入れで恐怖を植え付けるのを手をこまねいてみてきた。共和党員たちは、トランプ政権を祝し、ジェフ・セッション司法長官が率いる「法と秩序」への回帰に拍手を送ったトランプはまた同時に、収監された人たちへの警察の虐待も奨励した。

トランプ政権が柱としているこのような政策を共和党は広く支持している。そして、これはほんの手始めに過ぎない。ここ数週間、トランプ政権は白人が高等教育で差別の犠牲になっていないか調査を実施する意向を示している。政権は、英語を話せない移民の米国への移住人数を制限しようと提案している。移民コミュニティへの手入れの件数を増やすと威嚇し、国外退去の対象者として特に子供の頃、米国に入国した若年層の移民に的をしぼっている。

共和党はトランプのレーシストのヘイト・スピーチによりどころを与えるだけでなく、彼の政治課題を強化させてきた。これにより、レーシストの右翼たちは、邪魔だてするものを威嚇し、社会の隅に追いやり、殺害さえやってのけられるという自信を吹き込まれた。邪魔だてする者の中には、黒い肌や褐色の肌の人たちと共に、彼らレーシストに挑戦する白人の反レーシストたちも含まれている。我々全員に照準を合わせたのだ。

シャーロッツビルでのレーシズムに対する闘いで、公職にある人々がようやく公的な場に出て、白人至上主義とネオナチの増大を批判する発言をせざるを得なくなった。私たちは団結して、右翼レーシストに対する闘いを続け、彼らが再び人をあやめる前に止めねばならない。
(2017 © Hideko Otake)

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